介護福祉士の映画監督がテーマにした「介護」への想い

先日、映画「まなざし」についてご紹介させていただきました。介護福祉士である監督の介護への想いをどうぞご覧ください。

世間の「介護」というイメージ

介護に対する世間のイメージは、きつい、苦しい、職員の給料が低いなどネガティブな物が多いのが現状です。私も仕事をしながら、そういった厳しい現実に直面する事はあります。しかし、介護の仕事は、私を人として成長させ、同時に人が生きていく上でかけがえのない大切な事を教えてくれました。

自分が当たり前にしてきた「食事」「排泄」「睡眠」という行為

それは利用者さまに接する中で、「食事」「排泄」「睡眠」という、自分が今まで当たり前にしてきた行為が、生きる上でいかに尊いものであるかを改めて気付かせてくれた事であり、また人が人と生きていく上で、一番大切な事は何なのかを深く考えさせてくれた事でした。『まなざし』上映後には、お客様と介護業界の著名人、監督を交え、介護の現状を良くするため、希望を見出せるような社会にするための議論のきっかけの場としたいです。

映画のきっかけは祖母の面会

今回、介護をテーマとした映画を撮りたいと思ったのは、特別養護老人ホームにいる祖母の面会に行った事がきっかけでした。祖母は認知症で、会話などはできますが足は弱り車椅子のため、トイレに行く時は誰かの介助を必要としていました。祖母が便意を訴えた時のことです。トイレに一緒に向かいましたが、立ち上がることもできない祖母をどうやって便座に座らせていいかも分からず、ただ右往左往し困り果てていました。

その時でした。施設の女性ヘルパーさんが颯爽と現れ、僕に代わり祖母に優しく声をかけながら、手際よく体を抱え手すりにつかまらせ、流れるような動きでズボンや紙オムツを下げ、 スッと便座に座らせたのです。そして慣れた手つきで祖母の排泄介助を済ませ、ただ立ち尽くすしかなかった私に、まるで何事も無かったかのように「ごゆっくり」と笑顔で応え、再び祖母を預けて下さいました。

私はその時のヘルパーさんの、まるでアーティストのような洗練された無駄のない介助の動きにすっかり魅了され、祖母はこういった方たちの存在により、何不自由無く暮らすことができているんだという事実を目の当たりにし、本当に心から感動し、ヘルパーさんの存在に感謝しました。

「介護」や「老い」に対してそれまで私が抱いていたイメージは、できれば避けたい、目をつぶっていたいものでした。でもそこで見た優しいヘルパーさんと祖母の姿を見た時、私の中で「介護」 と「映画」が結びつきました。私がトイレで見たその光景は、人が人と共に生きていく上で、とても大切な事を示してくれたからです。そしてそれは映画で描くべきテーマにふさわしいものであると直感しました。

介護現場で自ら働きながら…

介護の仕事を続ける中で、私は良い経験を沢山させていただきました。死に向かう方の最期の日々に、一人の人間として自分が関わる時、自分は一体この方に何ができるのだろうか?そして、自分はどういった最期を迎えたいのか?それを考える事は、すなわち自分がこれからどう生きて行くのかを真剣に考えるという事でもありました。その中でも、ある利用者さまから頂いた忘れられない言葉が今も私の胸の中に輝き続けています。

その方は終末期を迎え、寝たきりで話す事もできず、余命はあとわずかである事を、私を含めたヘルパー達は知らされていました。ある夜勤の日、その方の部屋に行った際、こう話しかけました。「◯◯さんにとって、人生とはどういうものですか?」すると、話すこともままならなかったその方はハッキリとした声で「そうね、人生って少しずつ良くなっていくものね。」と仰ってくださいました。

「人生って少しずつ良くなっていくものね。」

私はそれまで「死」というものに対して怖い、悲しい、避けたいなど、とてもネガティブなイメージしか抱いておりませんでした。しかし、死に向かうその方から頂いた「人生は少しずつ良くなる」という言葉にとても感動し、「死」に対するイメージが以前よりも恐ろしいものではなくなりました。もしかしたら「死」は誰かに何かを与える事のできるとても穏やかなものなのかもしれない、と。その数日後、その方は眠るように穏やかな表情で、スタッフ達に見守られながら息を引き取りました。

前向きで希望的な言葉を映画で!

介護の仕事をした事で出会った「人生は少しずつ良くなる」という、前向きで希望的な言葉。これを何とか自分だからこそできる表現手段として映画で描きたい!そしてそれを沢山の人達に伝えたい! その思いでここまで頑張ってきました。何とか多くの方に観ていただき、映画館を介護についての希望を話す議論のきっかけの場にしていきたいです。そして、とかくネガティブなイメージがつきまとう介護の話を、もっと前向きに話せる社会にしていきたいです。

【監督:卜部敦史プロフィール】
1981年オーストラリア生まれ。大学生のころから自主製作映画を製作し、映画の助監督を経て、TV局の報道取材部にて勤務。退社後フリーとなり、2010年、初長編作品「scope」を監督。渋谷アップリンクにてインディーズとしては異例の3ヶ月ロングランを記録。2013年、短編映画「萌」を新宿K’s cinemaにて劇場公開。長編2作目となる今作は、介護現場で自ら働きながら取材を繰り返し、制作された。

【外部リンク】映画「まなざし」Facebook
https://www.facebook.com/映画まなざし-277369415805166/

ペンネーム:卜部敦史さん(介護福祉士・映画監督)
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今回は、監督の想いを紹介するため、2つに分けて記事をまとめてみました。

1つは、前回ご紹介した「介護福祉士が監督した映画『まなざし』2016初秋•順次ロードショー」です。そして今回の「介護福祉士の映画監督がテーマにした『介護』への想い」です。

公開は2016年初秋からということですが、より多くの地域で劇場上映するために応援していきたいですね。

クラウドファンディングへもぜひ。
【外部リンク】介護福祉士が監督し、海外映画祭で上映した映画を劇場公開したい
https://readyfor.jp/projects/manazashi